ちまちま本舗

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スーパーエロビッチな彼と妄想癖な俺のLOVE生活! サンプル

原作版書き下ろし(R18) オフセット/文庫/188P(表紙含)より少々抜粋

一.プロポーズから始めよう 火村視点

 朝の光の中で愛おしい彼の全身を眺める。ふわっとした茶髪が朝日に透けて輝き、白い肌はやはり天使みたいだ。
「おはよう」
「お、おん。おはよう」
 照れくさそうに、はにかんで微笑む彼に、俺が告げたい言葉はただひとつだ。ごくりと唾を飲み込んで口を開けると、彼もまたおずおずと口を開けそうな気配に内心慌てる。ここでもし彼に先に何か言われたら、せっかくの俺の決心が鈍ってしまう。それを聞くより前に、自分の言葉をどうしても相手に届けたい。そう切に願ったのは、どうやらお互いだったらしい。がばっと体を起こして、俺と彼は同時に対面で向かい合う。
「俺と結婚してくれ!!」
「俺をお嫁にもらってくれへん!?」
 言い切った、と安心すると同時に、それぞれの耳に聞こえた、相手からの言葉の意味を測りかねて、俺たちは二人して首を傾げる。
「えっと?」
「君からどうぞ」
 もう一度言ってくれ、と促すと、アリスは頬を染めて、上目遣いでこちらを見上げ、お嫁さんにして、とにわかに信じられない言葉を繰り返し、俺はあまりの多幸感で、自分の耳がおかしくなったのかと思った。お嫁さん!
 それはもう、とびきり可愛い嫁にしてやるとも! 真っ白なウェディングドレスに綺麗なブーケを持って、海外の教会で式を挙げよう。そして新婚なのだから、いちゃいちゃ甘い生活を、少なくとも五年くらい堪能して、毎日子作りしたい。アンアン言わせて俺の精液を溜め込んで本当に孕んでしまえ、と鼻息荒く意気込み、次にこれは逆プロポーズというやつだろうか、という不安がよぎり、だが、自分も同時に彼にプロポーズしたから、逆プロポーズを受けた、情けないヘタレの構図は回避したはずだと思い直す。
 ところで、お嫁さんという言葉は空耳ではないよな? とアリスの顔を覗き込む。何しろ俺はうっかり妄想が暴走しがちなところがあるのだ。もしこれが全部、俺の妄想だったら数日は立ち直れない。
「なぁ、火村も言うて?」
「ん?」
「さっきの、もっかい」
 うん、と俺は頷く。これが夢じゃないなら、何度でも彼が安心するまで言ってやる。
「俺と……結婚してくれ」
 さっきアリスからも、彼の言葉で同じ意味の言葉を聞いているから、彼の答えは既に分かっているのに、改めて言うとなると、やはりちょっと緊張で口にするのが少し怖い。きっと彼は断らない。そのはずだ、と多少の不安で唇を引き結んだ俺に、アリスはそれはそれは綺麗な微笑みを浮かべた。目尻に涙まで浮かべている。
「喜んで!!」
 ぎゅう、と抱きついてきたアリスの重みに、どさりと二人してベッドに倒れ込む。実は表記してなかったが、二人共が全裸だ。つまり、全裸でプロポーズしあって、二人共が全裸で合意した、ということになるのだが、その間抜けさは突っ込まないで欲しい。アリスに突っ込んでいいのは俺のナニだけだ! いや、脱線してる場合じゃないな。
「火村、ほんまにえぇの?」
「いいよ。アリス、結婚しよう」
「おん!」
 幸せや! と満面の笑みのアリスを抱き締め、俺は愛しい彼をシーツの海に再び縫い付け、夢じゃないことを己の身体に刻み込ませた。


ニ.出会いはラブホテル 火村視点

 そもそもの出会いは、昨夜に遡る。
「出て行ってちょうだい!!」
 カードキーを持たされ、ドンと突き飛ばされるようにして後ろによろけた俺は、相手の怒り狂った顔に肩をすくめて廊下へと出た。ラブホテルという場所柄、男女の感情のもつれはよくあることだろう。それに、俺は強引にこんなところに連れ込まれたのが不快だったから、追い出されたのは幸いだ。
「やれやれ」
 無理矢理連れてこられた上に、その気はないとすげなく断ったらこれだ。こんな女の相手をしている暇なんて、俺にはない。どうやら俺の容姿は整っているらしくて、女性から声はよく掛けられるが、それに対していつも食指が動かない。過去には性欲発散という意味で、多少付き合いめいたことをしたこともあったが、仕事のほうが面白くて女を放置していることが多いから、いつも勝手に女が去っていくが、別に構わないのだ。
 幸いにも両親は他界済みで、親戚などとも縁が薄いせいで、断りにくい見合いなどは持ち込まれることは少ない。このまま独身を貫いて、好きなことをやる人生を謳歌したいものだ、とたった今切れた縁にせいせいしながら、カードキーをフロントに返すべく片手に持ち、ついでにタバコを吸える場所を探して廊下を数歩歩く。
「た……っ! 助け……てっ!」
 バタン!! と突然勢い良く向かいのドアが音高く開いて、バスローブ姿の誰かが転がり出てきたと思ったら、その誰かは目の前に居た為に目に入ったらしい俺の後ろに回り込み、そいつを追うように険しい顔のバスローブ男がナイフのようなものを持って、廊下に出てきた。
「おい! そいつを寄越せ」
「……その前に、その物騒なものを仕舞えよ」
 俺の背後には、息を潜めている子がひとり。俺は正面の男を見ているから後ろの気配しか分からないが、俺より少し背が低いようだ。背後から俺のスーツのジャケットを軽く引っ張っているような感触がする。さっき一瞬で目に入ったのは、明るめの茶髪のショートに琥珀の瞳。一瞬だったから性別まではわからなかったが、未だに後ろで震えているようだ。
「おい、そんなやつの後ろに隠れてないで出てこい!」
「……ぃゃゃ」
 後ろから聞こえた声は小さかったが、女性にしては低い気がする。男性だろうか。とりあえず性別はともかく、このまま引き渡したら、この殺気走った男が何をするやらわからない。どうするべきかと逡巡している間に、俺が追い出された部屋のドアが開いて、さっき俺を追い出した女が、化粧や着替えを済ませて顔を出したが、まだ廊下に居た俺と隠れてる子とナイフ男を見て、ぎょっとしたように駆け去っていった。
「警察に電話するぞ」
 あの女がフロントに報告していればいいが、単にやっかいごとに巻き込まれたくないと逃げた可能性もあるから、アクションを起こすなら自分しか無い。ふぅ、とため息を付きながらスーツのポケットから携帯電話を取り出す動作と、独り言に近い俺の言葉に、ナイフ男はチッと舌打ちして出てきた部屋に戻り、ドアをバタンと音高く閉めたので、廊下はまた静かになった。
「あの、おおきに」
 はぁぁ、と安堵したような声とともに、後ろでへたり込んだような気配に、俺は改めて後ろを振り向く。うつむいている茶色のふわふわした髪の毛や肩に、白い羽根がいくつかくっついていて、一瞬、この子は天使なのかと二度見したが、どうやら背中には羽根はないようだから、羽根枕の羽根でもくっつけただけだろう。下へ視線を移すと、何故かほつれてぼろぼろのバスローブの裾から覗く綺麗な生足が見えるが、肩幅や筋などから推察するに、やはり性別は男性らしい。
 そして、その細めの右手首には手錠の金属の輪がひとつ嵌っていて、鎖で繋がったもうひとつの輪は、開いたままでぶら下がっているのが見えた。左手はちゃんと自由を確保しているようで、スマホをしっかりと握っている。こういう場所での拘束プレイは、あってもおかしくないが、逃げ出したことも考えると、この手錠はあの男に無理に嵌められたのだろうか。ヒドイことをする。
「立てるか?」
「あ、はい。すみません」
 介助の手を差し出すと、恐縮したように伸ばしてきた手錠付きの手は、まだ少し震えている。バスローブはあちこち引き裂かれたような感じで、余程の怖い目に遭ったんだな、と同情しながら顔を上げた彼の顔を見つめて、俺は数秒固まった。そして、何故だか彼の方も、俺の顔を見上げてうっとりした顔をしているのは何故だろう。
「……かわいい」
「……かっこえぇ」
 りんごぉーん、と教会の鐘の音が鳴り響いた気がした。後になって彼のほうも、俺はゼッタイこの人と結婚するって決めたんやもん! という決意をこのときにしたと言うから、これはお互いに一目惚れというやつだったのかもしれない。
 茶色の髪にハチミツみたいな琥珀の瞳、白い肌に、さくらんぼみたいにぷくりと熟れた唇が色っぽい。年齢は二十代前半くらいだろうか。顔がどことなくベビーフェイスで幼く見せているのかもしれないが。
 このままこの子をどこかの部屋に連れ込みたい、と自ら思ったのは初めてのことで、いや出会ったばかりでそんな破廉恥なことをしていいのか、とわずかにためらった俺の手を、彼がぎゅっと握った。無粋な手錠の鎖がチャリッと音を立てる。
「あ、あの、お礼させてください」
「え、いや、お礼なんて」
「やって、俺の気がすまへんし!」
 ひたりと俺を見上げてくる瞳には、うっすらと涙の膜が張って潤んでいるのが、保護欲を掻き立てられる。このままベッドに連れ込んでぶち犯したい、という願望と、まずはお友達から、という常識とでグラグラと揺れる俺の耳に、クシュンと小さなくしゃみの音が届いて、そこでハタと我に返った。
 そういえば彼はバスローブ姿だ。風呂あがりだとしたら湯冷めしてしまう。
「とりあえずこっちの部屋に避難しよう」
「あ、服と財布が……けど、取りに戻るの嫌やな……」
「後で回収してやるから!」
 何なら服ぐらい、いくらでも買ってやる、と豪語して、俺は自分が追い出された部屋の鍵を持ったままだったカードキーを使って開け、彼をまずは部屋の中に引っ張り込んだ。
「まずは風呂に入れ。風邪をひく」
「あ、その前に電話させて! あの人マジやばかったんや」
 ちょっとごめんね、と俺に断ってから、持っていたスマホでどこかに電話した彼は、電話相手に客がナイフで襲ってきてヤバかったが自分は大丈夫だと告げ、オーナーに終了報告しておいてくれと頼んでいる。どうやらデリバリーヘルスのような、性風俗か何かの連絡先と通話しているような雰囲気だ。まぁこの容姿だし、そういうので生活してるのかもしれないな、と細く見える身体を眺めていた俺は、彼の手首の手錠に少し考えて、そろそろ会話の終わりそうな彼を見ながら、部屋に備え付けの電話でフロントに連絡する。
 電話に出た従業員に部屋番号を告げ、自分を連れてきた女は帰宅したが、ナイフを持った男から救った子を引き取ったのでこのまま宿泊に変更でと話し、金属の手錠を外せるものがあるかと念のために聞いてみた。ペンチとニッパーあたりで何とかなるかもしれないので配達しましょう、との返事で部屋に配達してもらうことになったので、ついでにフライドポテトとアイスコーヒーをふたつ頼んでおく。届け物は専用の取り出し口に置かれるので、届いたら取ればいい。よろしくと告げて受話器を置くと、同じく通話を終えて、スマホをテーブルに置いたばかりの彼と目が合った。
「あ、あの、お風呂一緒に入らへん?」
 きゅっと俺のジャケットを軽く引いたままで、そんな誘い文句を言う彼が可愛すぎてくらくらする。ぶっちゃけ、ここで襲いそうだ。ふーっと息を吐いて理性をかき集めながら暑く感じるままにジャケットを脱いで、引っ掛けていただけのネクタイを引き抜いてソファに落とし、湯を溜めてくるから待ってろと不安そうな彼に断ってから、風呂場に出向いて靴下だけ脱いで浴室に足を踏み出し、栓を確認してから湯の蛇口をひねっておく。
「投げとったら、シワになるやん」
 部屋に戻ると、俺がベッドに無造作に投げたジャケットとネクタイを、拾い上げた彼が部屋の壁にあったハンガーを持ってきて、丁寧に掛けてくれていた。それを見ながら、いい嫁になりそうだなと考える。いや彼は男性なのだが、なぜか俺はそう思ったのだ。
「ありがとう。……えぇと、きみ」
 そういえば名前を聞いてなかった、と口ごもった俺に、彼はハンガーを壁のフックに掛けて振り向き、はんなりと笑う。
「名前言うて無かったね。俺は有栖川っていいます。有栖川有栖。よろしゅう」
 柔らかなテノールの関西弁が耳に柔らかく心地いい。これがベッドの上で乱れたら、どんな声色に変わるんだろうか。
「俺は火村だ。火村英生」
「火村さん、助けてもろうて、ほんまに、ありがとうございました」
 両手を揃えてぺこりと頭を下げる仕草に、ふわふわの茶髪とぶら下がった手錠が踊り、頭にくっついていた羽根がひらりと床に落ちる。
「ああ、敬語はやめてくれ。君のほうがかなり年下にしても、居心地悪い」
 ひらひらと手を振って辞退すると、キョトンとした顔がこちらを見上げた。
「……俺、意外と歳食っとるで?」
「そうなのか? ……まさか四十代とか」
「なんでやねん! 三十や!」
「四つ下か……、まぁそれでも敬語は無しだ」
 童顔だなと思ってはいたが、三十路。いや、年が近くて少しは気が楽になるけれども、この可愛い顔で三十……。
「えぇの? まぁそっちのほうがありがたいけど」
 にこにこと有栖川は笑い、ほんならと俺を浴室の方に誘導する。
「いっしょに洗いっこしよ?」
 えへへと子供みたいに楽しそうに誘う彼の誘惑に、断れる男が居たら見てみたいと思いながら、俺は脱衣所に突入して、ワイシャツのボタンを外して行く。バスローブ一枚だった有栖川は、するりと肢体を惜しみなく晒して、脱衣かごにそれを落としたかと思うと、カチャカチャと俺のベルトに手をかけた。
「っ、おい」
 お礼のつもりだとしても、そこまでするとは思わなかったので思わず声をかけるが、制止する間もなくスラックスが落とされて、下着が外気に触れる。
「わ。立派やな、君の」
「溜まってるからな」
 そっと下着の上からさする彼の手つきに、むくむくと俺の息子が元気になっていく。
「ほんなら、せーの」
 ぐっと押し下げた下着に、ぼろんと飛び出た屹立が、太く固く存在を主張する。
「美味しそう……」
「あ、こら、有栖川!」
 ふらふらと跪いた有栖川の唇が、俺の息子に触れそうになって慌てて止めた。できれば、彼と先にちゃんと口でキスをしてからがいい。奉仕は後でいいのだ。というか、今、奉仕されたら情けなくもすぐ暴発しそうだ。
「……あかんの?」
「先にちゃんとキスしてくれよ」
 慌ただしく、足元にまとわりつくスラックスと下着を脱いで、浴室に彼を連れ込み、湯を吐き出す蛇口を閉め、たっぷり溜まった湯に二人で浸かってから、もう我慢しないとばかりにどちらともなく相手に腕を伸ばして、抱きつくように顔を寄せて唇を重ねて、これが夢ではないことを体に実感させていく。
「ん……っふ、ん…ん、っ……ぁ」
「……ぅ、ん……ちゅっ……っは」
 柔らかい唇がはむはむと俺の唇を甘く噛んで、二人分の唾液が混ざって舌に絡む。歯列を舌先で撫でると、ぶるっと彼の体が震えた。
「キスだけで……イキそ」
「……うん」
 はぁ、と吐息混じりに吐く息が甘くて、腰にずくりと欲望が貯まる。もっと奥まで舌を絡めたいが、彼の腰が引けている……というよりむしろ、こちらに少し無理な体勢で、身を乗り出しているのがきつそうだ。
「アリス……もうちょっとこっち」
 そう呼んだ途端に、彼が戸惑ったように俺を見上げた。彼の名前はアリスガワ アリスだから、急な名前呼びに聞こえたかもしれない。
「……お、おん」
「今のアリスは名字を省略しただけだ。いいから、俺の足に座っていい」
「重いんとちゃう?」
「浮力があるから」
 気にしないで体重をかけろ、と促すとちょこんと俺の腿にお尻が乗せられた。重くないと言えば嘘になるけれど、それよりも、すべすべした肌の感触と、嬉しそうに顔を寄せるアリスの仕草に重さなんて吹っ飛んだ。
「舌出して」
「んあ」
 赤い舌がちろりと唇の間から顔を出したのを、逃がすかとばかりにかぷりと補食しに行く。れろりと舐め上げた舌に、ぴくんと肩を揺らして僅かに震えた指が、すがるように俺の胸に留まっているのがいじらしい。ただし、右側には金属の輪が嵌ったままだから、変な気分にもなりそうだが。
「もっと……開けて」
「んぷ……っふは、ん、んむ……たべられひゃう」
「そうだよ」
 喰ってるのは俺で、美味しく食べられちゃうのはアリスだ。唾液の一滴も髪の一筋も、一欠片も残さず俺に食べさせて、と甘く執拗な口づけで食い下がる。段々と唇だけでは物足りなくなって、顔をずらして首筋に舌を這わせれば、あっと甘い声がアリスの唇から溢れる。


この先は、本編でお楽しみ下さい。
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