ちまちま本舗

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「LoveYouOnly」のサンプル。

「LoveYouOnly」より抜粋

※この本は全てアリス視点で話が進みます。

一、開幕はお仕置きで

「ひ、むらぁっ……も、堪忍してぇ?」
「まだだよ、アリス」
 まだ時間はあるんだ。そう告げる隣の席の男を私は潤んだ涙目で睨みつけた。
「そんな目で見るなよ」
 苦笑を浮かべている男の名前は火村英生という。今年の春に私と知り合い、そこから急速に親交を深めていって、今では一応、恋人と言って差し支えないような位置にいる男だ。
「だれのせいやとっ」
「しー」
 うぐぐ、と詰まる私の耳が、黒板に書かれていくチョークのカツカツと乾いた音を拾う。ついでに、耳が拾うのは、私の身体の内部から響く、ブーンという低い振動の音。ぎり、と噛みしめる奥歯。そうでもしないと私の理性がブチ切れそうなのだ。
「せ、せめて……よわくっ」
「じゃぁ、あと三分我慢したらね」
 そう告げて、火村は無情にも前を向いて黒板の文字を書き写し始め、こちらには目もくれない。
「くそぉ」
 はぁはぁと荒くなりそうな息をなんとか鎮めて、私はうっかりボキリと折れそうなほどきつく握ったシャープペンシルを緩く握り直し、がくがくと震えそうな足を何とか踏ん張り絶望的な気分で秒針が動く時計をぼんやり見上げた。



 ああ、自己紹介が遅れた。私の名前は有栖川有栖という。男性なのに女性みたいな妙な名前だが、これはちゃんとした本名だ。この名前のお陰でインパクトだけは誰にも負けない私は、現在二十歳。英都大学の法学部二回生だ。
 本が好きで、特に推理小説が好きで、将来は作家になりたくて、作家の登竜門となる様々な応募に原稿を送っては学生デビューが出来たらいいなと夢を描いている。まあ、実際のところ、落選続きで夢はなかなか近寄ってきてはくれないわけだが、いつかそのうち! と意気込みだけはエベレストより高いはずだ。
 そして、私の隣の男は、同じ年の恋人。名前を火村英生という。こちらは社会学を学んでいて成績もかなりいい。校内でも結構イケメンと称されるような鼻筋の通ったキリッとした顔立ちで、見た目に惹かれた女性陣からも人気が高い。ただ、当人は女嫌いだと公言していて、おまけに先月、私を恋人にしたものだから、ここのとこ私に妙なやっかみとか八つ当たりとかが降ってくるのは勘弁してもらいたいと思う。
 こんな男にもやはり欠点というものはあって、若白髪交じりの髪はボサッとしていて、洋服のセンスもあんまり良くない。柄物があまり似合わないと自覚してるのか、大抵が白や黒のモノトーンか、紺あたりの色味だ。まあ衣服に関しては下宿住まいなので衣服に金をかけるよりも本代に充てたいということでバリエーションが少ないらしいが。
「ちゅうか、こんなん、聞いてへん」
 イケメンは心が広いと言ったヤツが誰だか知らないが、火村に関してはイケメンのくせに大層心が狭い。特に私に対してものすごく狭い。こいつの独占欲と嫉妬がものすごいと知ってたら、私だってもうちょっと対処方法を考えたのにと思うのだが、惚れたもんは仕方ない。
 だが、お仕置きだって言われてのこの状況はどうかと思う。何しろ、まず二人きりではないのだ。周囲はちゃんと勉強しに来ている学生が椅子に座り、せっせとノートを取っているし、教授は黒板にチョークで書き付けて熱弁を振るっている。
 そんな中で、私は結構後ろの方の椅子に火村と並んで座っていた。正確には、座らされていた、だ。
「あといっぷん」
 うう、と呻く私の中には、ローターが仕込まれている。平たく言えば大人のおもちゃだ。私の直腸でぶるぶると振動して、ジーンズの下に隠れている息子をはちきれんばかりにそそり立たせているのは、ローターが前立腺をひっきりなしに刺激しているからに他ならない。
 さっき顔見知り程度の男になぜか襲われそうになったのを股間を蹴飛ばして逃げたのは良いものの、逃げてきた私を保護してくれた火村が事情を聞いて盛大に嫉妬して、口喧嘩に発展した結果がコレだ。オモチャなんて持ち歩いてどうする気だったのかは聞きたくないが、人前でエロい顔を見せないように訓練とか言われて、あれよという間に突っ込まれた。
 ふーっ、ふーっと荒くなりそうな息を誤魔化すために左手で口を覆っているが、じんわりと袖口が湿ってくるし、額から脂汗が滲みそうだし、よだれまで垂れそうで、何度もつばを飲み込んでいるのだ。固まって微動だにしない私は果たして教壇前の教授からどう見られているのかが不安だが、こんなところで粗相をしたくない一心で固まっているので、どうか見逃してくれと祈る三分間。
 カチ、と赤い秒針が十二を回ったところで、右肘でもって火村をどつき、もう止めてくれと懇願する。渋々という風に左手に持ったコントローラーを指先が操作して、少しだけ振動が緩くなった。
「っふ」
 ずび、とよだれをすすり、ゆっくりと吐息を吐いて、すっかり止まっていた手をようやく動かして、ノートにのろのろと書き写していけば、こちらをちらちらと気にしていた様子の教授も別の学生の方を見回し始める。
「そこまで向こうも気にしてないだろ」
「分からへんよ?」
 意外と授業中の学生たちの様子を気にしている可能性も結構高いというのを本当に知るのはもっともっと後の話だが、とにかく教授が黒板を全て消さぬ前にとせっせと書き写す。どうせ火村も同じノートを取っているから、後で見せてもらっても良いのだが、今の段階で書き写せるものは全て書いておかないと熱弁していた教授にも悪いではないか。
「お前、教授にまで変な色目使うなよ?」
「それは君の考え過ぎ! 大体、このコマは俺の必須科目やないねん」
「まぁな」
 これはむしろ、推理小説を書くにあたって何かの参考になるかなという期待半分で取ってる授業だ。なのでこれを落としても私の成績に響きはしない。
「それにしても、妙なことになってんな。なんだって急にみんな、アリスに擦り寄りだしたんだか」
「そんなん俺が知るか」
 こっちが知りたいわ、とむくれる私に、火村はむすっとして、また手の中のコントローラーを弄び始めたので、私は引きつって小声で制した。
「ひ、ひむら、あの」
「やっぱり、もうちょいお仕置きな?」
「ひ」
 再びぶるぶると振動を始めたローターに、悲鳴を噛み殺して振動に耐える。授業はもう残り少ないから、火村が私にイタズラ出来る時間もそんなに多くはない。
 そう思っていたのだが。
「んぅ!」
「あ、ヤバそう?」
 にやりと火村が笑う。振動はどうやら最初よりも強くなっているようで、体内から響く音が外に漏れてないかハラハラする。音を外に出さぬように力を入れると、余計に中の粘膜がオモチャを締め上げてしまって、ぞくぞくと駆け上がる快感が身体を熱くして、膝を頑張って合わせていることでぷるぷると震えている足だけでなく、手まで震えてきた。
「っん、ぅ……っ」
 あ、あ、気持ちいいとこ当たって、イきそう! やばい。こんなとこでイったら駄目だ。そう思うのに、機械だから容赦なんて一切なくて、このままだと盛大にイって下着だけでなくジーンズまで汚しそうで。イきたいと願う本能と、イくなと制する理性でぐらぐらと頭が煮える。
「アリス?」
 不意に振動が止んだと同時にチャイムが鳴り響く。私はもう声も出せずに、ただただ荒い息を繰り返して、なんとかイかずに済んだ体の火照りを、ノートに頬を付けて少しだけ逃してみたが焼け石に水だ。
「すまん。やりすぎた。動けないなら肩を貸すなりなんなり……」
「足、がくがくで……歩けへん」
「悪い。ちょっと待ってろ。ノート片付けたら運ぶ」
「ってかな、火村」
 ばさばさと大急ぎでノートと筆記用具を私のと彼のと片付けている火村に、私は青い顔をのろのろと上げる。
「吐く」
「え、ちょ!? 待て、アリスっ!」
 ぎゃああと喚いた火村が私の身体を急いでトイレに運んでギリギリ事なきを得たらしいのだが、そのあたり、私にはあんまり記憶がない。



 私と火村との出会いの話は初夏に遡る。
 それはゴールデンウィーク明けの階段教室での授業だった。私がせっせと内職して原稿用紙の升目を埋めていたのを、たまたま隣に座った火村が興味を惹かれて無断で原稿を読み進んだのだ。なんだこいつと怪訝にそいつの顔を見上げての第一印象は、イケメンだな! だった。ちょうど盗み見たのは横顔だったのだが、すっと通った鼻筋が綺麗で、不審者という印象はちょっと薄れた。
 それにしてもこんなに熱心に人が書いたものを読むとは変わってる。そうは思ったのだが、何しろちょうど筆が乗っていたので変な男は放置して私は執筆を続ける。読むスピードと書くスピードとどちらが早いかは言わずとも分かるだろう。裏返しにして置いていた原稿の分をすっかり読み終えた彼は、終いには私の手元まで覗き込むという執着っぷり。こっちが引きかけたところでチャイムが鳴った。不審人物は無視して退出すべく机の上を片付けていた私の耳に聞こえたのはよく通る低いバリトン。
「その続きはどうなるんだ?」
 続きというのは、内職していた小説のことだろうか。私の手元を覗き込むほどに私の書いていた小説が面白かったのだとしたら、それは素直に嬉しい。ここで私の彼へのポイントが一つ上がった。
「あっと驚く真相が待ち構えてるんや」
 それはもうミステリーなだけにな! 胸を張ってそう言ったら、気になるな、というなかなかにして著者を喜ばせる答えだったから、本当に? と聞き返す。
「アブソルートリー」
 オフコースどころではない返事に、ますます変なやつだなと思った。それが火村英生だったのだ。そこからなんやかんやと対話を繰り返して、色んな話をして仲良くなっていき、彼の下宿に遊びに行ったりなんだりで、夏休みも終わり、秋の風吹く季節が冬へと移動しそうな頃には、すっかり仲良くなって、連日のように遊んでいたのだが。
「アリスが好きだ」
 そう言われて、ぱちくりと瞬いた。それが先々週のこと。その日もやっぱりいつものように飲み会をしていて、ビールを口にしていたから、実のところそれがマジな告白だなんて思っても見なかったのだ。
「俺も火村のことは好きやで?」
 とりあえず友人としての模範的回答を繰り出してみた私に、ぐっと詰まり、やおらガリガリと頭をかきむしって、そうじゃねぇよと低く吠えた火村は、飲みかけのビールを一気飲みする。ダンッと机に置いた空き缶は、勢いのままにころんと転がった。
「あ、空き缶はこっちに」
「空き缶は置いといて、俺を見ろ、アリス」
 ぐいっと両肩を引き寄せられて、よく分からぬままに正座させられ、対面には少し頬を染めた火村。まだ私の混乱は解けぬままに、もう一度同じ言葉が繰り返される。
「俺は、アリスが好きだ。恋愛対象って意味で」
「はぁ」
「アリスがさっき言った、俺も好きというのは、俺と同じ意味だと思っていいのか?」
「いや、待って待って、ええーっと?」
 悪いが時間をくれ、と制しておいて、好きの意味を考える。
「君が俺を好きやってのは嬉しいんやけど、例えばどこが?」
 あんまり言いたくはないが、私はそんなにモテる方ではない。十七の時の派手な失恋で、私は取るに足らない存在だったのだなと落ち込んでいたことがあるものだから、余計に自分自身に自信がない。
 火村が好きと言ってくれるのは嬉しいのだが、私のどこに惹かれたのか、さっぱりわからないのだ。
「まず容姿が可愛い。猫みたいなふわふわの茶髪に、琥珀色の瞳が綺麗だ。肌の色もインドア派だから白くてきめ細かいし、体臭もそんなにしないし、ひどく男臭いわけでもない。ニキビとかもたまに出来る程度だし、細めの体躯も抱きしめたくなる」
「……はぁ」
 なんだか女性に対しての褒め言葉のような羅列に、私の性別を勘違いしてないだろうかと思ったが、当の火村はめちゃくちゃ真面目だったから、とりあえず頷いておく。
「そんな華奢な感じなのに、ミステリーを語らせると止まらないし、小説執筆のためなら徹夜しまくるし、売られた喧嘩は率先して買いに行こうとするのが危なっかしくて辛い」
「うっ」
 今度はけなされたのでは、と引きつった私に、火村はにこりと微笑む。
「でも、俺が指摘した点は素直に非を認めて反省して、大事な小説をより良くするためには努力を惜しまないとこは凄いと思う」
「お、おん」
「素直で良い子だなと思ってたら、たまにものすごく頑固で怒ると手がつけられないこともあるなぁ。それから、ああ、いつだったか――」
「っ、も、もうええからっ」
 これ以上聞いてたら羞恥心が死ぬ。ばたばたと手を振って遮ったら、火村はまだあるのにと唇を尖らせたが、もう充分だ。こんなにずらずらと並べ立てられるとは思わなかった。
「お、俺を好きっていうのは、一応、納得はしたけどもやな」
「うん」
「俺、同性とお付き合いしたことないで?」
「俺だって無い」
 あっさりと言われて、あれ? と首を傾げた。女嫌いと公言していたし私に告白したから、てっきりその、彼はそういう性癖なのかと思ったのだが。
「別に、性別とか関係なく、正式にお付き合いとなったら、ほら、デートするとか、いろいろあるだろ」
「あ、ああ、うん。でも、それ友人でも良くない?」
「友人にキスしてもいいのなら、友人という呼び方をしても別にいいけどさ」
 それを友人というくくりにはしないだろ、普通。と言われて、なるほどと変に感心した。確かに欧米諸国でもないのに、友人にキスをする習慣は日本にはない。
「あ、あぁ、そっか。キス……え、もしかして、きみ、俺と、き、キス……したいん?」
「したい」
 すぱっと言われて、思わず彼の唇を凝視してしまった。ちょっと薄めの唇は、いつも彼が考え事をするときに指でなぞっているのを見ているが、それが私の唇とくっつく、ということを改めて考えたら、途端に私の貧相な恋愛脳はパニックを起こしてしまう。
「えっ!? そんな、急に言われてもっ」
 あわあわと無意味に両手を振り回して焦る私に、はぁぁと重い溜め息をついて火村が足を胡座に組み替え、キャメルを取り出して無造作に咥える。シュボッとライターが着火した音が無駄に部屋に響いた。
「無理強いはしない。どうせまだお前の方は俺をそういう対象として見てないだろ。俺がお前に惚れてるってことだけ覚えててくれ」
 ふーっと紫煙を吐いて、火村が寂しそうに呟く。
「なんで……?」
「んー?」
「それ、なんで俺に言おうと思ったん?」
「お前があんまりにも無邪気に俺に懐くから」
 我慢できなくなる前にって思ったんだよ、と火村は言った。それを聞いて、三日考えさせてくれと返事を引き伸ばした私は、私に出来る範囲でいっぱいいっぱい火村のことを考えた。
 私だって初恋はあったから、思いが募って吐き出すしか無い辛さがあることは知っている。私がもしも、火村に君の気持ちは受け取れないと言ったら、彼はあの時の私のように虚しい思いをするのかもしれない。そして、私から離れてしまうのかもしれない。嗚呼――それは嫌だな。それだけは避けたい。
 でも、ぶっちゃけ、まともにお付き合いをしたことがないので、どうしたものやら不安だらけだ。ぐるぐると悩んで、結局、火村のことを好きかどうかよく分からないままに、私は火村にぶつかってみることにした。
「火村、俺にちゅーして!」
 三日後、火村の下宿にお邪魔して、部屋に上がった私はまずそう頼み込んだ。どうやら火村の好きは結構高くエベレストくらいに想いが募ってるらしいが、私の方はまだまだ今から登山準備をしようかという初心者レベルだ。とりあえず、キスがクリア出来たら火村のレベルに追いつけるのではないだろうかと短絡的に考えた私は、そこをとっかかりにすることにしたのだ。
 もし、キスが生理的に無理だと思ったら、これはもう仕方ない。火村には悪いけれど、私を諦めてもらうしか無い。
「なんだよ? もう襲って良いのか?」
 私の思惑を知らぬ彼は、万年床に私を押し倒そうとしたから、慌ててジタバタと暴れ、とりあえずは布団の上に座り直して。
「ぎゃあ! 待て! 襲うのはあかん! なんちゅうか、順番ってもんがあるやんか。最初は手ぇ繋ぐ! それから、抱きしめて、その後でちゅー! それで、恋人になれるかどうか確認すんの!」
「手? 繋げば良いのか?」
 よく分からんという顔で、火村が私の手をおもむろに握った。温かい。私より少し大きい手だ。節ばっていて、高校時代はボクシングをやっていたと聞いたが、そのせいなのかしっかりした手のように感じる。
「それで? 次は抱きしめるだっけ?」
「お、おん」
 ぐいと引き寄せられて、むぎゅっと抱きしめられた。どきどきと鼓動を打つ心臓の音がうるさいほどに耳に届く。これは絶対、火村にも聞こえていると体を強張らせたのだが、よく聞けばそれは鼓動が二つタイミングが少しずれているだけだった。つまり、火村も私と同じくらいドキドキしてるのだと分かって、私はゆるりと緊張を解く。
「アリス」
 ほんの少しだけ身体が離されて、温かいのに離すのかと文句を言おうとして、火村の整った顔がアップになったことで私は文句も言えずに引きつった。こ、これは、もしや、まさか、その。
「好きだよ」
 ちゅっとほんの少しだけ触れた唇がすぐに離れた。あっけないくらいの接触で、キスってこんなんだっけ? と混乱したくらいにささやかだったのだ。
「え、え、あの、あの、……も、もっかい、して?」
 せっかくのファーストキスを覚えてないとかもったいなさすぎるだろう! そんな思いでねだった私に、ちょっとだけ目を丸くした火村が、口先だけでふっと笑う。
「目、閉じてろ」
「……っふ!?」
 さっきよりはもう少し深く。ちゅう、と口付けられて、同時に耳を火村の手がやんわりと覆う。ぺろ、と舐められてびくっと揺れた肩口を宥めるように撫でられ、角度を変えてまた口付けられた。思ったよりも嫌な感じではない。
「ん、む?」
 ええと、これはいつまで続くのだ? というか、息継ぎができなくて息が苦しい。酸欠を起こして死んだらヤバイ! と頭を後ろに引いて、まったくもって役立たずだった手を今更ながら突っぱねれば、やっと唇が外れた。
「っぷは! はぁ、はぁ、……くるしい」
「ああ、悪い。つい夢中になって」
 いや君、ちっとも悪いとか思ってへんやろ、と文句を言うために火村を見上げれば、とろけたような顔で微笑まれて、あんまりにもびっくりして瞬く。
「あ、いや……うん」
「もしかして、初めてだった?」
「悪いか」
 くそ、こいつ余裕な顔しやがってと思いながら答えれば、嬉しいよと返事が返った。
「嬉しいん?」
「めちゃくちゃ嬉しい」
「そ、そうなんや……」
 どうしよう、なんかむっちゃ照れる。そして、私の方もキスは嫌じゃなかったし、抱きしめられたのも妙な安堵感とドキドキで心臓が落ち着かなかったけれど、やはり嫌ではなかった。
「大丈夫みたい」
「ん?」
「君を好きになれそうやと思って」
 へへっと笑うと、火村はまたもやむぎゅーっと私に抱きついてくる。
「アリスっ」
「いたたた! ちょ、この馬鹿力っ! 君、性急すぎや!」
「悪い悪い」
 また嬉しそうに笑って、それから私達は一応、恋人になったのだ。私が恋愛初心者だから、ゆっくり行こうなというのは告げてある。
 嫌なことはしないと言ってた火村も、だからキスから先は少しずつ進もうかと笑っていたというのに。



--中略--


「あの……なにすんの?」
「気持ちいいこと」
 ああそういえばそう言ってた、とちょっとだけ納得したが、まだちょっと不安だ。
「ぶっちゃけ、なにをどうするんか聞いてええ?」
「ペニスをくっつけて、兜合わせ」
「かぶと……?」
 って、なんですかね? とボカンとしている私の下着を火村がするるっと脱がしてしまった。
「わあ! えっち!」
「えっちなことするんだから、当然だろ」
 慌てて自分の手で隠した息子は、やんわりと制止するように火村が私の手を剥がしてしまう。
「風呂で見たんだから、照れなくていいだろ」
「そうなんやけど」
 分かってるけども、なんかちょっと恥ずかしいというか、どんな顔をしたらいいのか分からない。
「いいから、ほら」
「わわ」
 気がつけば火村も下を脱いでいて、私の股間にぺたりと火村の息子が乗せられる。私の息子はまだ項垂れているが、火村の方はちょっと反応しているようだ。
「こ、これ、恥ずかしい」
「じゃぁ、こうしよう」
「うひゃ!」
 冷たいと思ったら、とろーっとローションが結構たっぷりと私と彼の息子に掛けられた。ぬちゅっとぬめった音がして、分身に気持ちよさが伝わる。むくっと反応したのが恥ずかしかったのだが、火村の方も一緒に反応してるから、お互い様だろうか。
「触って?」
「え、うわ! き、きみの……でかくない?」
 手を誘導されて触れてみた火村の息子は、私のものよりも太くてどくどくと脈打っている気がした。
「それ、完全に俺を煽ってるぞ?」
「へっ?」
 なにが? と驚いた顔の私に分からなくてもいいけどねと笑った火村は、彼の息子に私の手を押し付ける。
「いいから、ほら触って。お互いに気持ちよくなろうぜ?」
「ええと、俺は君のを触るん?」
「お前がいつもやってる方法で触っていいから」
「お、おん」
 人のものを触ったことなんて無いけれども、自分の場合とそんなに変わらないだろうと思いつつ、軽く握り込んでゆっくりとこする。時折、ふっと息を吐く火村は、軽く目を伏せて私の手付きで快感を拾おうとしているみたいだ。



--中略--



<途中、アリスがモブに襲われるシーンがあります。未遂で終わりますが、どんな感じなのかを載せておきます>

 ものすごーく嫌な予感というか、いや、予感じゃないわ、これ。そう思うのは、私の尻をもぞもぞと手が這い回っているからだ。女子高生ではないのに何をどう間違ったんだか知らないが、これは間違いなく痴漢だ。男の尻なんぞ触って気持ちいいとは思えないのだが、変態なやつは相手が大人しそうで若ければ何でも良いのかも知れない。
 時刻は夕方で、車内には程よく乗客が詰まっている。ぎゅう詰めの朝の満員電車よりは少しマシという程度だ。そんな状態だから、最初はごつごつと無遠慮にぶつかってくるのは硬い鞄だけだったのだ。
 それが、駅を通過していく度に乗客が増えて、だんだんと窓際に追い詰められて、身体のあちらこちらが周囲の人間とくっついて、そうこうする間に私の尻にむにっと手が触れた。
「っ!?」
 最初は何がなんだか分からなかった。だって、私はごく普通に男なのだ。勘違いかなと思っていたら、すりっと撫でられて、ぞわっと体が震えた。
「っひ」
 気持ち悪っ! というのが最初の感想で。今までにこんな不快なことが人生であっただろうかと思うくらいの不快さで、慌てて身体の位置を変えて後ろを睨む。手は一旦引っ込んだようだが、一体誰が痴漢なのかは分からない。男の尻が硬くて諦めるならそれでいいやとまたドアを向いて足を踏ん張ったところで。
「はぅ!?」
 えっえっ!? と頭の中でクエスチョンマークがいくつも飛び交う。なんだこれ!? なぜ、私のおちんちんは見知らぬ男の手にズボンの上から鷲掴みされているのでしょう!?
 大混乱な私を無視して、もみもみすりすりと大胆に触れてくる手から逃げようと身をよじるけれど、背後からがっちりと腰を抱かれてしまっていて、前に腰を突き出す程度しか逃げられない。タラップから落ちるギリギリくらいで踏ん張ってるせいもあって、足がカクカクと震えだした。カチャカチャという音にハッとすれば、もぞもぞと動く手が、私の腰のベルトを外して、ずるんと私の性器をズボンから出してしまってるじゃないか!
「えっ!? あっ!」
 嘘だろ!? 知らない男の手に、私の性器が直に握られて、ずるりと降ろされたズボンと下着にお尻が半ケツで、そのお尻には硬い肉棒が押し付けられて、見知らぬ男の先走りが割れ目に塗りつけられた。
「っひ」
 しこしことこすられて、私が恐怖で縮み上がってるのに痴漢の手の動きが止まらないのが嫌すぎる。お尻に太いものを擦り付けられて男の興奮した息遣いが耳に届いて、それがまた恐怖だ。

<ここからアリスが反撃に入るのでイタズラは未遂に終わります。ご安心下さい>


--中略--


<ちゃんと火アリちゃんでくっつくよ!という証明に、エロも少し載せますね>

 遠回りをしたような、そうでもないような。まだどうにも落ち着かないココロは、この先を怯えているけれど、もう逃げられないし、逃げたって仕方ない。
「えーと、……あった」
 ぺりぺりっとコンドームの個装を破って、火村が中身を取り出した。淡いピンクの避妊具をぼーっと見ていた私の口が勝手に滑ったのはその時で。
「俺が被せようか?」
「は?」
 目を丸くされてしまって、変なことを言ったのかと初めて気がついてこっちもまた慌てる。
「っ、いや、ごめん。変なこと言った」
「変じゃないけど……、やってみるか?」
 はい、と手渡されて、ベッドに起き上がる。避妊具をオモテとウラとひっくり返して、向きを確認したのは、こんなもん付け慣れてないせいだ。
「やり方は分かるのか?」
「知識はある」
「……ああ、そう」
 知識ね、とか繰り返すな。こんなものはやってみればなんとかなるのだ。そっとゴムの先端を摘んで彼のものに被せてから、そっと引き下ろしていく。
「えっと、こう、かな?」
「そう。そのまま引き下ろして」
 するすると竿の下へと引き下ろしていけば、ちゃんと装着できた。それはいいけど、火村も緊張でもしていたのか、私が手を離したらほっとした顔をする。
「さて」
「う、うん」
 ごくんと二人して唾を飲み込んで。
「駄目だな。いざとなるとうっかり緊張しそうで」
「君が緊張するなら、俺なんて余計に怖いわ!」
 火村の弱気に噛み付けば、二人して顔を見合わせてから、ぷっと吹き出す。
「あかん。アホやな、俺ら」
「まぁ、はじめてだから、余計にな」
 くくく、と笑って火村が伸し掛かるついでのように私を押し倒した。
「っわ」
「アリス」
 ちゅっちゅっと口付けられて、ふにゃっと力が抜ける。火村の手はゆっくりと私の胸へと移動して、肌をあちこち弄っていく。
「っん、ゃ、こしょばい」
「くすぐったいのは性感帯って言うけどな?」
「そんなん知らん」
 ぷいと顔を背けると、ふふっと楽しそうに笑われた。性感帯とか言われたところで、誰かに肌を許したのは今日が初めてなんだから、そんなものの存在は知らない。
「じゃぁ、今日から一緒に見つけようぜ」
「見つけるんは君やな」
 自分自身ではいまいち分からなくても、火村ならきっと見逃さないだろう。
「だから、力は抜いててもらわないと困るぜ?」
 ひょいと戯れに火村が私の手を取った。そのままそれを軽く揺すって、力が抜けているかどうかを確認しているような仕草だ。
「ん」
 分かってると頷いて、より一層、脱力を心がける。
「いい子だ」
 ちゅっとまた落ちてきた口つげは、今度は私の下腹部に。おへその下に口づけされるとか、変な感じだ。
「一応、ローション足すかな」
 念の為、と火村の手のひらに傾けられた液体が、とろりと私の肌に落ちてくる。上から下へと垂れた液体を、火村の指が私の奥へと塗りつけて、これでもう準備は万端だ。
「足、もう少し開くよ?」
「うん」
 火村の誘導で足を開かされて、二人してドキドキと緊張を持て余しつつ、奥に触れた熱に息を吐く。
「挿れるぞ?」
「……っあ」
 ぐっ、と熱いものを感じたのが最初で、それから、その熱さが私の体内にじわりと侵入してくる。痛いとかいうよりも圧迫感が迫ってきて、普段は意識しない内蔵の苦しさに喘ぐように口を開けて。
「っは、あ、っ」
「苦しいか?」
「っは、……な、なんとかっ…」
 はあはあと息をしていけば、勝手に強張っていたらしい身体が少し脱力して、楽になった気がする。
「……まだ全然入ってないんだ。もうちょっと頑張れ」
「うそやん!」
「カリが入るかなーってとこ」
「うぇぇ」
 そんな馬鹿なと思って、我が下半身を見下ろそうとしたのだが、流石に組み敷かれているからよく見えない。

サンプルここまで。サンプルは青火アリですが、三十四でもエッチしてます。
波乱はあるけどちゃんとらぶらぶ!よろしくお願いします!
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