ちまちま本舗

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君と探す幸福論 サンプル

原作版書下ろし本(R18) オフセット/A5/84P(表紙含)より数点抜粋

一、告白とそれから (アリス視点)

 昨日、火村に告白された。
 あんまりにも普通に、さらりと何かの拍子に「そんなアリスが好きだ」と言われて、お礼のつもりで「俺も火村が好きやで」と返したら、真面目な顔で「付き合ってくれ」と言われて「どこに?」とボケたことを返したのが昨日の午後。
「そうじゃなくて」、と火村はばつが悪そうな顔をしてから、「恋人ってことだよ」と早口で告げられた言葉に、私はなんと返事したのだっけ……。
 辞書を広げたまま、ほけーっと自習室の端っこで窓の外を眺めていたら、眼下、少し遠目に火村がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。思わず、ばっと窓から見えなくなるように咄嗟に椅子から降りてしゃがみ込んでから、なにやってんだと我に返ってのろのろ立ち上がる。
 自習室内には学生が思い思いにノートや教材を広げて勉強しているのだが、その中の数人に怪訝な顔で見つめられてしまった。いかんいかん。『有栖川くんが奇行に走ってた』とか変な噂が立つところだ。
 よく考えたら、ここは二階で向こうは地面。そして火村は視線を上には上げてない。視線の先に居るわけでもないのに、上方向なんてなかなか気がつくはずがないだろう。
 それに、こそこそ隠れなくたっていいはずだ。私は彼の友人だし、彼に対して何かいたずらを仕掛けて逃げているわけでもないのだから。
 いや待て。告白されて、どきまぎとぎこちなく頷いたのは私だった。ということは。もうあれか!? 友人どころではなく恋人というやつか!!
「ひぇ……!」
 恋人!! まさかの。女性とお付き合いをしたことはあるが、それも数回デートした程度で執筆に追われてうやむやに終了したのが初のお付き合いだったから、人生二度目のお付き合いが同性という我ながらなかなかにしてアグレッシブな方向に舵を切ったものだ。
 思わず口から溢れた言葉に、周囲の不審な視線が再び突き刺さったので慌ててお口にチャックして密かに頭を抱えた。私ときたら昨日のことがまるで夢だったみたいに実感が薄くて、今頃になってやっとじわじわとドキドキしてる始末。
 えぇと、こ、恋人……なら、こういう時、どうするのが正しいんだろう?、とドキドキする心臓を持て余しながら考える。
 まずは、手を振ってみるとかだろうか。しかし、さっきも言った通り、私達の視線は高低差があって合いにくい位置にある。
『むー……こっち向け~……こっち向け~』
 今、私が居るのは図書館の自習室だ。曇り空が見える窓を開け放って呼ぶような真似をしたら勉強中の学生たちや司書に怒られてしまうので、ひたすら目に力を込めて、じーっと見下ろしてみる。まぁ、無言で見つめてるだけでは気がつくまい、と高をくくっていたのだが。
 不意に火村が立ち止まって、上を向いて、その仕草にまさかと心臓が跳ねると同時に。
 バチッ……、と視線が合った。合ってしまった。
「うひ!?」
 咄嗟に再びしゃがみこんで隠れたものの、心臓はバクバクで一気に身体が火照ってしまって、膝に力が入らぬまま、後ろの机にずるりと身体を預けた。
 またもや、変な奇行のせいで周囲がざわついたが、別に虫なども壁や床に這っておらず、私にも身体的に異変がなさそうなのを視認して不思議そうに周囲のざわめきは静まっていく。
「なんや……いまの……」
 バチッと視線が合って、ヤバイと思ったこちらの気も知らず、あいつは、火村はにっこりと微笑みやがった。それはそれは幸せそうに笑いやがって。
「なんやの……もぅ……」
 ドキドキする胸に手を当てて、深呼吸。
 あんな変なことをしてしまっては、火村の顔がまともに見られない。どの道、ここで待ち合わせと言ったのは私自身だ。ならば、早めに呼吸を整えて彼が来るまでに何事もなかったようにしなければ、と目を閉じて深呼吸を繰り返す。
「アリス」
 ほら来た、と思いながら顔を上げる。自習室内の密かなざわめきが私の奇行のときよりも黄色いのは相手が火村だからだろう。
 まだちょっと顔が火照っている状態だった為か、火村の顔を見て更にドキッとした。あああ、あかん。普通にしたかったのに、なんや照れくさい。なんで火村はこんな格好良いんだ、畜生。
「お、おぅ」
 返事を返しながら、そっと視線を外して立ち上がる為に床に手を着く。
「ここで待ってるとは聞いてたが、まさか俺を見てたとは思わなかったぜ」
 ふふっと小さく笑って、火村がほらと手を差し出してくるので、ここは甘えようかとその手を取った。繋いだ手をぐい、と引っ張られて楽に立ち上がれる。こういう手助けをさらっとやってくれるとか、本当にこいつはいい男だよなとしみじみ感謝するとともに、もしかしてこれは女性扱いなのかしらと複雑な気分になってみたりして。
「おおきに」
「なぁ、外、雨降りだしたんだが、傘持ってるか?」
 掴んでいた手が外れたタイミングで不意に聞かれて、えっと瞬く。ついさっきまでは雨なんて、と視線を向けた窓にはごく小さな雨粒がいくつか跡を付けているということは、降り始めたばかりか。
 同じく気がついてなかった他の学生達も数人が雨だとざわつく。今日の天気予報は曇りのち雨だったっけ。
「いや、悪いけど」
「なら、もう下宿寄って泊まって行けよ。レポート手伝えるし」
 一本持ってて良かった、と傘を示す火村に気が利くなと返すと、たまたまだよと笑う。なんでも今日とは逆に午後に晴れた先週に傘を置き忘れていたらしい。
「ん……ほんなら、甘えよかな」
「風邪引くよりいいだろ。……原稿は進んだか?」
「おん……ああ、いや、あんまり進んどらへん」
 君のことで頭が一杯で推理小説どころかレポートも進まなかった。なんてこった。しかも、その理由は本人には言えない。
「煮詰まってんなら、話を聞くぜ?」
「んー……せやな」
 ぼちぼち帰りながら話すわ、と水を向けて二人並んで出口を目指す。歩いて図書館の玄関に辿り着いた頃には、雨は結構本降りになっていた。
「相合傘だから、なるべくくっついていこうぜ」
「お、おん……」
 そうか。しまった。相合傘だから密着しないと濡れてしまう。ただでさえドキドキするのにくっつくとか、心臓持つんだろうか。……いや、もしかしたら遠慮なく自然にくっつけるチャンスだったりするかな?
 ドギマギしながら頷く私を強引に引き寄せた火村が黒い傘の柄を持つ。私は肩を並べて足を踏み出しながら肩掛け鞄を身体の前側に引き寄せて雨がかからないように腹に抱えて足元を見ながら歩いた。
 しとしとぴしゃぴしゃと雨の音が耳に響いて、通りを走る車の音もどこか雨にけぶってくぐもった音として耳に届く。雨に濡れたアスファルトの匂いがして、空気がどこか生ぬるい。湿度が上がっているから気温も高いのだろう。
「……つめたっ!」
「ああ、ほら、もっとこっち来い」
 ぽたり。
 傘の金具から滴り落ちた水滴が私の肩に落ちたのが妙に冷たくてびくりと体が跳ねた。なんだかヘンにビビってたので余計に驚いた私を火村の手が引き寄せる。その手がやけに熱い気がして、こっちの頬まで熱くなっていくのを誤魔化すように私は口を開いた。
「お、おおきに。……あ、雨、早う止めばいいのにな」
「……あー、……そうだな」
ちらっと見上げた照れたような横顔はふいっと逸らされてしまって、もう一度無盗み見た私の視界には彼の端正な横顔が映る。火村も少し頬が赤い気がするのは気のせいかな。
「そ、そういや、この前、古本屋で投げ売りされてた本の中に掘り出しもんがあってな」
 黙ってるのも気まずいしと、いつものように他愛もない話で口火を切ってみたのだが。
「ふぅん」
「ほんのちょっと汚れがあるってだけで半額以下やってん。お得やろ!」
「……ああ」
 いつもなら、どこの店だとか、また推理小説かとか返る反応がどうにも鈍い。別に他愛もない話だから、何か地雷を踏んだ記憶はないのだが、何故だろうかと訝しみながら別の話題に切り替えてみる。
「……えーと……きょ、今日は夕ご飯何やろな? 俺としては、肉がえぇな、肉!」
「……うん」
 またもや頷くだけの返事のみ。ううむ。これもまた話題選択を間違ったのだろうか。火村から単語しか返らないとは、知らぬうちに余程彼を怒らせたのかと考えるも、何が悪かったのか皆目見当もつかない。
 不安になって火村の顔を振り仰いだ瞬間に向こうがこちらを見下ろしていて、バチッと合った視線に再びドキンと心臓が跳ねる。
「ひ、む……」
「しっ」
 傘が。角度が少し変わっていくのをポカンと見ていた私の視界に火村の顔がドアップになって瞬くと同時に、唇に彼の体温が軽く触れて静かに離れていく。
 けぶった雨の中、鮮やかだったのは水を跳ね飛ばして走り去る車の音と、触れた体温。瞬いた視界に照れ臭そうな顔で元の位置に戻っていく火村の動きがひどくゆっくりとスローモーションになって、だから余計にリアルな実感が遠い。
 傘に隠れてキスされた、と気がついた時には、既に隣の男は普段の彼に戻っていたが、こっちはやっとこさ実感して顔が火照るのなんの。
「……え、と」
「風邪引く前に帰ろうぜ」
 横断歩道渡っちまおう、と示されたのは点滅をはじめた青の歩行者信号。真っ赤な顔を俯くことで隠して、足早に渡りきったところで、火村が聞いてきた。
「で、どうせ安いからって本を買いすぎて今月ピンチなんだろ?」
 その問いは、先程の古本屋に関してのものらしい。今頃かいとツッコミを心に浮かべながら、とりあえず頷く。あかん。まだ頬が熱い。
「よぉ分かったな」
「そりゃな。俺だってきっと同じ本屋に居たら察して知るべし、だ。ああ、それと、今夜のメニューは生姜焼きだって婆ちゃんが朝、言ってたぜ」
 おいおい。それだけスラスラと言えるなら、さっきなんでそれを返事しないんだ。むっとして顔を上げた私に、火村はふわりと笑った。
「君、順番おかしない?」
「悪い悪い。一生懸命話してる横顔が可愛くて、キスしたいなと思って見てたから、つい気がそぞろになってた」
 こういうのはどうすればいいんだ。男に可愛いは無いやろと否定してもきっとこいつは笑うだけだし。キスしたいと思って見てたとか恥ずかしすぎて困る。
「アホやろ」
「舞い上がってるんだよ。……察しろ」
 察した。つまり、私にキスするタイミングを測って返事が適当だったということだ。困ったやつ、と思いつつ、嬉しさを抑えられない自分もそこにいるから、どうしようもない。けれど、俺も嬉しいとか素直に言ったらつけあがらせてしまう気がして、アホって言ってしまった。怒るかなと思ったけど、舞い上がってる火村はその程度のことでは怒らないみたいだ。良かった。
「……傘あって助かったな」
「雨もたまにはいいな」
 小降りになってきた、と傘の角度が曇り空を見上げるものに変わる。真上は曇っているけれど、少し遠くへ視線を投げれば、雲の切れ間から夕日が雲を照らして淡くオレンジに輝く。
「虹、出るかな?」
「もう夕暮れだからすぐ夜になっちまうぜ」
 虹は基本的に太陽光で作られる。月の光でも虹ができるらしいが、気象条件が揃うのは日本では難しいだろう。
「せやな。カラスを見習って大人しく帰って、夕ご飯食って風呂入ってレポートやって寝る」
「手伝ってやるよ」
 ふふ、と微笑む火村の瞳が柔らかい。いつからこんなに柔らかく見つめるようになったのかと思い返しても私のほうが覚えてないのだ。もしかしたら彼は最初から私にこんな顔を見せていたのだろうか。
「おん。おおきに」
「その代わり、一箇所教えたら、キスひとつな」
 甘ったるい声で告げられた声に、え!?、と声を上げる私に、あははと笑って先を促すように私の肩を抱いて歩く火村の本心が本気かどうか分からない。
 あれ、もしかして泊まりに行くって自分から食べられに行くに等しいんじゃなかろうか。このままで居たいような、一歩進みたいような、ドキドキの夜へ向けて、私はそっと火村の横顔から目を逸らして赤くなった顔を隠すようにうつむいて歩いた。


<中略>


ニ、きみと初めての快楽を (火村視点)

「さて、何か疑問は?」
「疑問はあらへんけど、恐怖しか残ってへん」
 ひぃ、と真っ青になったアリスを見て、作戦失敗だったかと俺は臍を噛んだ。我らの目の前には百科事典の性器の断面図。男の体を縦に断面にしたものがカラーで載っているのを教科書にして、男同士の場合のセックスについてを口頭で説明したのだが、アリスは引きつった顔で引いてしまった。
「あー……分かった。俺が悪かった。性急過ぎた」
 好きだ付き合ってくれ、で始まった二人の関係は、まだキスとベッティングというか、兜合わせとか素股程度しか進んでいない。しかし、そろそろ付き合って三ヶ月になるし、次のステップに進んでみたいなと思ったのだが。
「いや、ちゃうねん! 俺かて興味はあんねんで! けど、けどな、やっぱりちょっと怖いし、そのぉ……ぶっちゃけ、君のが人よりでかいんが悪いと思うんや!」
 びしっと指を突きつけられたのは我が股間。いや、俺の息子がでかいのを直せと言われても困る。むしろ、これは大きいと嬉しいというやつだと思うので余計に。
「いや、どうしろと」
「こ、興奮せんようにする、とか」
「無理」
「えぇー……ほんなら、ちょっと切る、とか」
 ちょきん、と指でチョキの形を閉じる方向に動かしたアリスに、こっちのタマがヒュンと縮み上がりそうだ。それは嫌だ。
「工作じゃないんだぞ。そんな手術できるか。むしろ、お前の開発したほうがよっぽどいい」
「へっ? なんで俺!?」
「お前さえリラックスして穴が広がれば問題はないんだ。というわけで、アリス、足を広げろ」
「えぇえーっ!?」

 *

 その後、説得という名の丸め込みになんとかこぎつけて、俺は風呂上がりの白い肌を晒すアリスの股間にローションを塗りたくっていた。
「うっうっうっ」
「泣くな」
「もうお婿に行けへんーっ」
「お前は俺のヨメだろ」
「ああ、ほんならえぇわ。ってちゃうわい!」
 大阪人はいついかなる時でもツッコミを忘れないよなと感心しつつ、アリスの背中を後ろから抱いてバスタオルを二重に敷いた畳に座り、この日のために買ったばかりのローションで濡らした指をまずは一本突っ込む。にゅるんと入っていったので安心して指を沈める。きゅうっと締め付けてくる中は熱くてしっとりとしていた。
「うう、へ、へんな…かんじ」
「力を抜いてくれ」
「お、おん」
 はぁぁ、と息を吐き、目を伏せるアリスの顔を伺いながらぬくりぬくりと差し入れた指を少しずつ動かして問う。
「どう?」
「どう、って」
 微妙、と呟く顔はどう表現していいのかと困っているようだ。とりあえず指一本は楽に抜き差しできるようになったので、少し指を曲げてみる。
 つつ、と指の腹が触れた粘膜にびくっとアリスの身体が揺れるのをすり寄せた頬で宥めて、そっと指を二本に増やす。太さが二倍になったことで、アリスが少しきつそうな表情をした。
「っん」
「リラックス」
「うう……」
 変な感じ、と呟いているアリスの眉間の皺が少し深くなっているところを見ると、まだ違和感があるのだろう。焦らずにじっくりとゆっくりと慣れさせるべきだよなとゆっくりと抜き差しして、時折指を曲げては粘膜を優しくこすって反応を伺う。
「ちょっとは慣れてきたか?」
 ただの抜き差しだけならば、そんなに眉間にしわを刻まなくなってきたのを見て聞いてみれば、コクリと小さく頷く。
「まだ怖い?」
「やって、きみのちんこ大きいやん」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、この場所は結構広がるんだぜ?」
 中に入れたままの人差し指と中指をチョキの形で広げてみせると、穴がくばりと広がって上ずった声が上がる。
「う、うわ!」
「うん、最初よりはちょっと広がったな」
 まだ俺のものが入るほどではないけれど、指一本でもきつきつだった最初に比べたら結構広がっている。
「ほ。ほんまに入るん?」
「アリスが俺のことを信用してくれるなら」
 その言葉にアリスはちょっとびっくりした顔をして、俺を見上げてこくこくと続けて二度ほど頷き、すがるように俺の袖を握っていた手を一旦離して、俺の手に自分の手を重ねた。
「する。ちゃんと信用しとるさかい」
「ありがとう」
 嬉しいと素直に伝えると、アリスもまたふわりと柔らかく笑う。
「俺も、火村とエッチ出来るように頑張る」
「傷つけないようにじっくり解すから、力を抜いててくれ」
「おん」
 ふぅ、と息を吐いたアリスの身体から、また少し余計な力が抜けていく。信頼してくれているという事実が嬉しくて愛おしい。大事にするから、と声には出さず心に刻んで、沈めたままの指をまたゆっくりと動かした。
「どうせならアリスはこっちの手で自分のを扱いて」
「え。お……おん」
 なんや恥ずかしいやんとか言いながらも、アリスは自分の分身に手を添えてそっと扱きだす。きっと、俺にしがみついているよりは気が紛れて余計な力が抜けるだろうと思った提案はなかなかの効果を産んだ。じわじわとアリスの分身が硬くなっていくにつれて解している場所は柔らかくなっていく。
「その調子。アリスは自分の息子にだけ集中してろ」
「ちょい恥ずかしいんやけど……」
 ぬぽぬぽとスムーズに滑る指を少し折り曲げ、粘膜に沿って撫でるとほんの少しだけ感触が違った気がして、指をその場所にもう一度当ててすりすりと撫でてみる。
「ひっ!?」
「うわ」
 びくっと震えて固まったアリスと、中がうねった動きに瞬いた俺の視線が絡まった。お互いに、今のは何だ? という疑問符だらけだ。
「痛かったか?」
「ちゃ、ちゃう。なんや、こう、びりびりって」
「ここが?」
「んひゃぁっ!」
 びくびくっとアリスが体全体を震わせ、俺の胸にもたれていた身体がずるりと傾ぐ。俺が指を突っ込んでいる場所は柔らかく指を包み込み、うねって奥へと指を飲み込むような動きをみせる。頭のなかで百科事典の断面図を思い浮かべた俺は、なるほどと納得して呟いた。
「前立腺ってここか」
「へ? あのガンになるとこ?」
 前立腺というとそれしかイメージがないという顔できょとんとしているアリスに俺は笑いかける。
「アリスが気持ちよくなれる場所を見つけたってこと」
「君がしっかり勉強した成果やな」
 へーぇ、と感心した顔で言われて、役に立ったろと返すと、経験も体験も大事なんが分かったと神妙に頷いているのがちょっと笑ってしまう。
「普通、こんなとこ触らんしな」
「だよな」
 ふふ、と小さく笑って、早速見つけた場所に少し強く刺激を加えると、アリスが悲鳴を上げた。
「ひっ!? ま、待って! な、なんや、出そうっ!」
「ああ、強く刺激すると射精したくなるって書いてあったな」
「っや、ぁっ! き、きみ、そんな冷静にっ! あっあっあっ!」
 出る出る、と上ずって慌てた声で告げるアリスが、俺と重ねていた手をぎゅううっと握った。彼の中は俺の指をしゃぶるみたいにきゅっきゅっと不規則に締めて、これが指ではなく自分のものであればどんなに気持ちいいだろうと思うと、ごくりと喉が鳴る。
「も、や、っぃやや! むりぃっ!」
 何度もビクビクと体を震わせてアリスが身悶える。かなり解れてきたのもあって、そっと指で押していた場所から指を離すと、アリスはくたりと力を抜いた。


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