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本能を開放せよ サンプル

オメガバース書下ろし付(R18) オンデマ/A5/60P(表紙含)より少々抜粋


「何度もしつこい。とっとと帰れ」
 いつものようにすげなく断ろうとしたのに、今回の相手は拒否が聞こえなかったように、薄く笑った。
「火村英生さんですね? 私はアルファ管理システムの尾崎と申します。あなたの将来について大事なお話をさせて頂きたいのですが、少々お時間を頂けませんか? 出来るだけ強制執行はしたくないのです」
 見知らぬスーツの男に、下宿の玄関先で強引に名刺を示されても困る。しかも、嫌な予感がするから余計にだ。年齢は三十代後半くらいだろうか。今はこちらに対して下手に出ている男は、けれどこちらの隙を伺っているような気もして居心地が悪い。
「お断りだ。何度来ても聞く気はない」
「まぁ、そう言わず。強制はなるべくしたくないのです。お時間も、五分で構いません。外に声が漏れるのは得策ではないと思うので、一歩だけ玄関の中に入らせてもらっても良いですかね?」
「……」
 人に聞かれて困るような話だなんて面倒な、と不信感を全面に出しつつ、けれど下宿の中に招き入れるのはどうにも嫌だったので、俺は外を指した。
「話なら外で。一旦戻って、外に出てくることを断ってくるから、あんたはそこを一歩も動くな」
「では、ここでお待ちします」
 にこりと相手は笑うが、その瞳の奥は笑っていない気がする。隙のないやつだ、という印象を抱えながら、俺は下宿内に取って返し、少し外に出てくると下宿の店子に外出を告げて、また玄関に戻ってスニーカーを突っ掛けた。
「コーヒーでも飲みながらお話しましょうか」
「断る」
 愛想笑いのような顔で言われるが、近所の喫茶店やファミリーレストランで、こいつを前に飲食したいとは思わなかったし、さっさと用を終わらせたかったので、提案には首を振り、軽く周囲の地理を思い返して顎で示す。
「五分で済むなら、そこの公園でいい」
「ええ、構いませんよ。ではそちらで」
 タバコを持ってくれば良かった、と後悔しながら近所の公園に出向き、そこのベンチに腰を掛ける。拳二つ分を開けて隣に座った男は、手にしていた封筒をこちらに差し出す。
「アルファ管理システムというものについて、ご存知ですか?」
 アルファ相手にご存知もなにもないだろう、と肩をすくめて返答した。
「番が居ないフリーのアルファを減らすって計画だろ。少子化対策とやらで。ニュースで強制執行の法律がどうのこうのとうるさいじゃないか」
「端的に言えばそうです」
 鷹揚に男は頷いた。飄々としたその横顔を見ながら、好き好んでアルファに生まれ落ちたわけじゃないと緩く首を振った。茶封筒の中身はあまり見る気がしないが、受け取らなければ面倒になるばかりなのは、今、体感してるばかりだ。渋々と受け取って膝の上に置く。
 人間には、性別というものがある。大まかに分ければ、男と女の二種類だが、細分化すると、性別は男女それぞれ三種類、合計六種類の表記が増える。それが、アルファ・ベータ・オメガという区分だ。
 アルファは人類のヒエラルキーのトップ。個体数は少なめで、素質として勉学や仕事、スポーツなどにおいても生まれつき全般的に成績が良いという利点があるが、最下層のオメガの発情フェロモンには抗えない。
 ベータはごく普通の能力の人間で、個体数は一番多い。アルファよりは多少能力が低く、アルファの威嚇には弱いが、オメガのフェロモンに弱いというほどでもない。
 最後にオメガ。成績その他はベータとほぼ変わらないが、繁殖の種という特殊性を持つ。個体数はアルファ同様に少ない。そして、女はもちろんのこと男であってもアルファ相手に妊娠出産できるという特殊な性別だ。約三ヶ月に一度、発情期があり、その時期はフェロモンを放出して無意識にアルファを惑わす。だが、そのせいでレイプされることも少なくないので、大抵のオメガはフェロモン抑制剤を飲み、普段はベータのふりをして生活している。
 オメガの発情フェロモンを止める方法は、抑制剤以外にもうひとつ。アルファがオメガの項を噛むと、その二人は番になり、他のフェロモンに惑わされなくなる。しかし、中にはオメガの同意がないまま、レイプの果てに項を噛んで番になったものの、アルファが一方的に番を解除してしまうこともある。そうなると、オメガは喪失感から発情フェロモンの制御が薬でもできなくなるという弊害があるのは厄介な点だろう。
 そんな状況と押し寄せる少子化の波を打開するために、日本政府は子どもたちが思春期になる前、小学校高学年頃に全ての日本国民にバースチェックを施し、アルファと判明した人間に、様々な相性診断で番候補となるオメガを紹介し始めたのが十年くらい前のこと。
 番相手の斡旋だなんてお節介もいいところだが、今までは受ける受けないは個人の自由だったからか、相性が良い相手を選んでいるからか、はたまたアルファからの一方的な番解除罪は罰金もバカ高いからなのか、紹介されたオメガと番になった後で番を解消する人間は少なめらしく、それがまたこの制度がなくならない原因でもあった。
 ちなみに、バースチェックでオメガと判明した人間には、定期的に医療機関に身一つで出向けば、フェロモン抑制剤と避妊用の緊急ピルを格安でもらえるように、保険証にオメガ情報を紐づけしてあるのだそうだ。
 繰り返すが、番制度を使う、使わないは個人の自由だった。だから、今まで電話や手紙でどんな斡旋が来ても断っていたのだが、今回は強制執行の法律が可決されそうでもあり、そろそろ逃げるのも難しいのかも知れない。
「面倒くさい」
「たまに居るんですよねぇ。アルファなのに、性に淡白な方や、運命の番でなきゃ嫌だという方が」
 やれやれという風に言われても、食指が動かないものはどうしようもない。ちなみに、運命の番というのは、アルファとオメガだけにある一目惚れみたいなものだ。遺伝子で惹かれ合うのだと言われるが、そんな都合のいいものは単なる都市伝説だろうと俺は思っている。
「アルファにも繁殖フェロモンという発情を促すものが不定期で出るのはご存知だと思いますが、私どもは病院からのデータを確認しておりまして、繁殖フェロモンが平均数値を超える方の中でまだ番のない方に、率先して連絡を取っているのです」
「繁殖フェロモンが多いから薬を飲めと医者に言われたから、ちゃんと飲んでる。だから、もう放って置いてくれ」
「私共もそうしたかったんですがねぇ」
 軽く肩をすくめた男は、さらりと話題を変えた。
「未分化オメガというのを、ご存知で?」
「未分化……?」
 聞き慣れぬ言葉に軽く眉をひそめる。
「こちらの俗称のほうがお聞き及びですかね? ……隠れオメガ」
「ああ、ベータの突然変異か」
「まぁそういう人もいれば、オメガなのに発情機能がちっとも発達していなくて、初期の頃のバースチェックでベータと間違われたままの人もいる。近年、検査精度が上がったもので、検体をもう一度洗い直す作業をしていましてね。その中に、あなたのお相手も居た」
「勝手にそれが俺の相手と決めつけるな。俺は番は要らない。ちゃんと薬も飲むし、あんまりにも、お前たちが煩いならもうパイプカットしてやる」
 半分くらいは脅しだが、パイプカットはなかなか良い案のようにも思えた。その策は、簡単に言えば精子を出さないように手術で処置するのだ。そうすれば子供は出来ないし、オメガのフェロモンに惑わされることも少ないと聞く。
 もう話は終わりだ、と立ち上がり、開けずに終わった封筒を手に歩き出す俺の背中に静かな声がかかる。
「その相手が、あなたの親友であってもですか? あなた、彼と居ると落ち着くんでしょう? 彼がもしもベータでなく、オメガだったらと考えたことはありませんか?」
 足が止まりかけたのを、なんとか踏ん張って前へ動かす。これは甘言だ。聞いてはいけない。
「くだらないな」
「そう思うなら、一度、彼の項を軽く噛んでみればいい。ベータなら何も起こりませんし、未分化オメガなら、オメガの能力が完全に覚醒します」
「どのみち、俺には関係ない話だ。他を当たってくれ」
 これ以上、こいつの話を聞いていたらロクな事にならないに違いない。俺は早足で下宿へと戻り、鍵をしっかりと掛け、不必要と判断した封筒をゴミ箱に突っ込んだ。




<R部分の一部抜粋>
「っや、むね、あかんって……」
 ささやかな抵抗を気にも留めずにイタズラな指先は私の乳輪を辿って、じわじわともどかしく快感にも満たぬ接触を続けている。直接触ってくれと言って良いのか悪いのか。こんな行為自体が初めてな私は、ただ喘ぐしか出来ない。
「な、なぁ、ひむ……んひぃっ!」
 じゅうぅぅっとバキューム音を響かせて胸が急に痛みを訴える。火村が私の乳首に吸い付いて、思い切り吸われたのだという事実に気がついたのは、びくうっと体が跳ねた後のこと。
「あ、あ、あ、……っ!?」
 弓なりに身体が反って、触れても居ないのに勃起した私の分身がびくびくと震えながら先走りをどろどろとこぼし、尻からもとぷとぷと分泌液がこぼれ落ちていく。ああ、もうぐしょぐしょだ。
「あ、あか、ン……いく、イってまう…っ!」
「おっと」

この先は、本編でお楽しみ下さい。
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