ちまちま本舗

オフライン案内所

午後五時からの天国サンプル

原作版書下ろし本(R18) オンデマンド/A5/114P(表紙含)より数点抜粋

一、こんな時間外勤務は想定外です


「つかれた……」
 はぁぁ、とネクタイを緩めて、よろよろと自分のデスクに辿り着き、椅子にどさりと座って、ぐったりと息を吐く。
既に会社の終業時間はとっくに過ぎて、もう夜の九時になろうかという時間。思えば昼過ぎからこんな時間まで、駆けずり回っているとか、正気の沙汰じゃない。
「足が棒になっとる……」
 触らなくても分かるくらいに、ガチガチだ。喉もカラカラだが、飲み物はデスク周りにはない。何か、ドリンク剤の一本でも買い置きしておけば良かった。
「お疲れ様だな、有栖川」
「おー」
 苦笑しているらしい同僚、天農の声に、ひらりと手を上げるだけで手一杯だ。顔を上げる気力はない。
「急な差し替えが出たって?」
 私の勤める会社は出版社だ。好きな本に関わる仕事をしたくて選んだのだが、実際に営業になったら、どこの体育会系か、と思うほどにあちこちに顔を出す日々で、本の中身に関わるというより、いかに本を売るか宣伝するか、のほうに関わらされて、正直しんどい。
「おん。お陰で昼も食ってない」
「それはそれは」
 ほら、これでも食え、と私のデスクに天農が置いてくれたのはカロリーメイト。嬉しいけれども、これは固形の方だ。
「ゼリーが良かったなぁ」
「悪いな、ゼリーは食っちまった」
 へへっ、と笑った天農は、『じゃあお先に』と鞄を手にして出ていく。朝方、彼女とデートとか言ってたから、今から会うのだろう。羨ましいことで。
「……はぁ」
 何か飲み物でも買って、わびしくカロリーメイト食って、なにかマトモな食い物を調達するか、と溜息一つ。疲れた足を引きずって、私は休憩室に向かった。

 * * *

「今日もこんな時間まで残業ですか」
 短くなったタバコを灰皿に押し付けながら、じろりと見下されて、思わず出そうになった舌打ちをぎりぎりで飲み込む。 
私よりも、ネクタイをだらしなく引っ掛けているのはどうかと思うが、火村英生という男は、こんなだらしのない格好でも営業成績はいい。私よりもいい。更に私より五つも年下で顔もイケメンときた。そんなやつ相手に、私の僻み根性がぐるぐるしてるのを悟られるのも嫌だ。
「……君に関係ないやん」
 なんで、こんな時間帯に、優秀で残業もあまりしないコイツがここにいるんだ。いささかげんなりと答えながら、私はちらりと一瞥した火村を横目に、自動販売機に小銭を入れた。
「チーフのあなたに倒れられたら困るんですよ、これでも」
「ほーぉ」
 それは知らんかった、と軽口を叩きながら、私はコーヒーのボタンを押そうとしたのだが、それより早く彼の手が緑茶に伸びて、冷たいお茶のボタンを押してしまう。
「おい!」
「ひどい顔色なのに、コーヒーなんて飲むより、食事と睡眠が先です」
「俺は、今からまだ仕事があるんだよ!」
「ボケたこと言ってると、ここで犯しますよ?」
 変なことを言われてムッとした私は、奴が取り出した冷たい緑茶をかっさらって蓋を開け、ぐびぐびと半分ほど飲み干して蓋を戻してから、ふーっと息を吐く。ああ、やっと喉が潤った。
「こちらもどうぞ」
 ずいっと差し出されたのは、ウィダーインゼリーがひとつ。ぽかんと顔をあげると、くぅと己の腹が鳴ったので慌ててそれも引っ掴み、じゅううっと吸い上げ、天農にもらったカロリーメイトも腹に収めた。これで少しは人心地がつく。
「仕事は明日の朝、片付けましょう。二人でやれば早い」
「アホなこと言うとらんと、君はもう仕事終わっとるやろうから、とっとと帰り。お疲れさん」
 巻き込むのも悪いし、とウィダーインゼリーの礼だけ言って帰そうと手を振った私の耳に、これみよがしなほどにあからさまな、ため息が聞こえた。
「俺があなたを待ってた……って言ったら?」
 コツリと革靴が一歩近づく。え、と瞬く間に、もう一歩。彼がまとうキャメルの香りが私の身体を包み込む。
「いい加減に無茶な仕事の仕方をやめてもらいたい。今日はそれを説教しようと待ってたんですが、気が変わりました」
 ドン、と突き飛ばされて、よろけた足がソファにぶつかり、そのままどさっとソファに仰向けで倒れ込む。衝撃で手にしていたゼリーの空パックは、ソファの後ろに落ちてしまった。
「……なに、すんだよっ!?」
「ああ、騒いでも無駄ですよ、もうフロアには誰も残ってないから」
「いった!!」
 慌てて起き上がろうとした私の両腕を、火村はひとまとめに頭上に持ち上げ、首から引き抜いた彼のネクタイで、私の両手首は手荒く縛られてしまう。
「っおい! 外せっ!」
「ご自分でどうぞ」
「てめっ!! ……ひゃっ!?」
 変なことになる前に蹴り飛ばしてやろうと振りかぶった足を取られたかと思ったら、ふくらはぎを揉み込まれて、まるでマッサージしてるみたいないい揉み具合に、私の文句は混乱した言葉にすり替わる。
「へ? ……あの、なに、して……?」
「足がぱんぱんじゃないですか。相当歩き回ったんですね」
 少し強いくらいの力で両方のふくらはぎを揉まれて、疲れていた足にはものすごく気持ちがいい。なんだこれ、天国か。うっかりと襲われそうだった事実を忘れてくたりと力を抜く。
「……気持ちいい」
「だいたい、こんなになるまで歩き回る必要はないんですよ。いくら部下の尻拭いったって限度がある」
「ん、けど……」
「あなたがそうやって甘やかすから、あの馬鹿が成長しないんです。あの使えない馬鹿よりも、俺に仕事を振って下さいよ。半分の時間で終わらせてやりますから」
「せやな……そう出来たらえぇんやけどな」
 火村が使えない馬鹿と評する部下は、ここの社長の息子だ。つまりはボンボンなので仕事の出来は察して知るべし。お陰で俺が泥をかぶって、彼の分まで仕事を増やしているのを、火村は毎回どうにかしろとうるさいが、火村は火村で私を心配しているのだろうから、これまたあんまりすげなくするのも悪い。
「荷物を、全部一人で背負う必要はないんですよ。もっと俺を頼りにしてくれてもいいでしょう?」
 あれ、こいつもしや拗ねてるのか? と思ったら、ふはっと笑いがこみ上げた。
「そこで笑うか」
「ぎゃぁ! 待て、痛い痛い痛いっ」
 くっくっと笑う私にムッとしたらしい火村が、ぎゅむーっと足の裏のツボらしき場所をかなりの力で押し込んだものだから、私は悲鳴を上げる。なんだこれ。めちゃくちゃ痛い!
「ここが痛いのは不健康な証拠ですよ」
「ひーっ! まじで痛いっっ! も、やめ……っ」
 手は縛られているから抵抗出来やしない。身体をくねらせて身悶える私に火村はやっと手を離し、私はもう息も絶え絶えで、ぐったりとソファに体を預けた。うう、マッサージは有難かったけど、足つぼは痛かった。
「俺なら、あんたに楽をさせてやるし、何なら食事もちゃんと手助けしてやれる。……そう望んでくれさえすれば」
 ぎしっとソファをきしませて、火村が覆い被さるように私の目を覗き込む。
「好きです」
「え」
「あなたが好きです」
 ぱちり、と瞬いても、真上にある漆黒の瞳は真剣なまま。
耳から脳に届いた言葉はあんまりにもシンプルで、だからこそ余計に私は混乱した。女性社員にキャアキャア言われてる火村が、私を好きだとか冗談だろ。
「え……っと?」
「寝耳に水ってカオですね」
 仕方ないけど、と苦笑して、こちらに手を伸ばした火村はするりと私の首のネクタイの結び目を引き下ろす。
「え、あの、ちょ、ちょい待ち」
「何故?」
「は?」
 いや、何故と聞かれても、とまだ混乱の中に私が居るのをいいことに、しゅるっとネクタイが解かれてしまった。
「気持ちよく寝ましょうか」
「はっ!? なに……んっ!」
 Yシャツの上から乳首を撫でられて、反対の手ではスラックスの上から股間を撫でられて、なんだかやらしい触り方にびくっと身体が跳ねる。
「ちょ、おい、へんなことすんなっ! 離せっ」
 ああ、畜生! 手が、手に巻かれた黒いネクタイが解けない! ジタバタと藻掻く間にも、さわさわと身体のあちこちをまさぐられて、そんな刺激にご無沙汰な身体が私の意思を無視して勝手に反応してしまう。
「癒やされて気持ちよく寝たら、翌朝すっきりですよ」
「いや、もう結構っ! な、なぁ、もぅダメだっ……んむーーっ!!」
 噛みつかれたかと思った口付けは、私の口の中を舌で蹂躙して、息継ぎが出来なくなるくらいに角度を変えて深く貪られて、奥に縮こまっていた私の舌を引っ張り出し、激しく絡みついてくるタバコの味がする火村の舌に、私は翻弄されるしか無い。
キスだけなのにぞわぞわと背中を駆け上がる何かに勝手に体が震えるし、うまく息継ぎ出来なくなって苦しいしで、半ば酸欠状態でくらくらしていたら、やっと唇が外れた。はぁはぁと新鮮な酸素を補給していたら、ふっと火村が嗤う。
「……そんなカオしてたら、最後まで抱きますよ?」
 なんのことだろう? とぼんやりしていた私は、カチャカチャとベルトを外される音で、はっと我に返る。
「やっ! なに!? ぎゃあ! スケベ!」
「ああ、やっぱりね。性欲発散する暇もないんでしょう?」
 あれよと言う間にずるんとパンツまで一気に降ろされて、勃起した息子がぶるんと勢い良く顔を出す。すかさずそれを火村がしこしこと手で扱くものだから、どんどんと腰が重くなる。ああ、くそ! 最近、抜いてなかったから、精液出したいってことしか考えられなくなってしまう。ダメだ。こんなこと!
 しかも、よく考えたらここは職場だ! 休憩室ではあるけど、すぐ隣は仕事場なのだ。こんなエッチなことをしていい場所じゃない。
「やっ! 離せアホ! トイレ! トイレいかせろっ!」
 なんとかして逃げないと、とくねくねと身をよじり、ネクタイを外そうともがいていたら、皮膚をこすれる痛みと引き換えに少しだけネクタイの拘束が緩くなってきた。これなら頑張ったら解けるかもしれない、とちょっとホッとしたというのに。
「だぁめ」
 そんなの許可すると思いますか、とニヤリと笑った火村がおもむろに屈み込んだと思ったら、ばくりと私のナニを口に含んだものだから、変な声が出てしまう。
「あひぃぃぃんっ!」
「んむ……ひぃもひぃいい?」



<中略>



■満員電車にご注意下さい

「ぐっ……しぬっ!」
 朝の満員電車に詰め込まれた私と火村は、会社の最寄り駅までの残り十分程を耐え忍ぶ苦行に、車内の奥へ奥へと押しやられていた。じわじわと後ずさって、とうとうゴチンと私の後頭部がドア横の窓にぶつかる。
「なんなんですかね、今日は」
 年末、年の瀬、歳末などの言葉でお馴染み、十二月下旬。師も走ると言われる程の多忙な時期。どこもここも人が行き交う時期なのは理解しているのだが、朝のラッシュはどうにかならないものだろうか。
「年末やしなぁ……にしても、ほんまひどいわ」
「まぁ、車の車検がなけりゃ、こんなに混む時間帯の電車には、あなたを乗せたくないんですが……」
 私の部下であり、強姦からのほだされて和姦になった結果、恋人になった五歳年下の火村英生が、私を周囲の客から守るように対面で抱え込み、ドア横に押しやられた私が潰れぬように、私の顔越しに窓に手を突っばって支えてくれている。
 普段は、こんな混雑を避けて少し早めの電車を利用しているし、混みそうな時間帯に出勤する羽目になったら、彼が言うように車で移動しているのだが、今日は色んなタイミングが悪かった。一日程度なら代車は要らないかなと断るんじゃなかった、と後悔しても後のまつりだ。
「いてっ!」
「もっと寄ってええで?」
 衝撃に痛みを訴える声を上げた火村の背中には、後ろから詰めた人が身体や鞄をぶつけたか、押し付けたかしたらしい。火村が少し距離を空けて庇っているお陰で、私は潰されず快適だが、支えてる火村は辛そうで、そう声を掛けた。
「じゃあ、もうちょっと」
 突っ張っていた腕が折り畳まれ、軽く火村とハグしたような状況になる。火村のキャメルの香りのするワイシャツとジャケットに顔を寄せることになって、私は少しだけ慌てた。
「ドキドキしますね」
「あほ」
 こんなもんは不可抗力だし、満員電車なのだから仕方ない。そう自分に言い聞かせて。恋人の胸に抱き込まれてるとか意識しちゃ駄目だ。赤くなりかけた頬を見られぬように、ぷいと顔を背けたと同時に扉が閉まって、ガタンと電車が発車する。
「ちょっとだけ満員電車に感謝かな」
 ひそひそ、と火村が私の耳元で笑う。首筋にかかる吐息が少しくすぐったい。
「単なる苦行やんか……」
 浮かれとると痛い目みるで、と脅してみた私だが、事実、程なく我らは揃って満員電車に翻弄されることになったのだ。

 * * *

 ひとつめの駅はさほど変化なく通過したのだが、ふたつめの駅ではまた乗客が増えた。
 日本の電車は余程のトラブルがない限りは定刻に来るので、数分待てばまた次の電車が来る。だから、混んでいる電車が来たときの反応は、諦める人と、強引に乗り込む人との二種類だ。
「うわっ!」
 後ろから急に押されたらしい火村が声を上げ、私と彼がまた、より一層密着する。
「っひ!」
 ごりゅっ、と私の下半身と彼の下半身がスラックスの生地越しに強めに擦れた。つい、変に高い声を上げてしまった私は、慌てて口をつぐむ。手が上げられたなら、己の口を押さえたかったが、この満員状態ではそれも無理だ。手は挟まれていて動かせない。
「っ……あの、不可抗力ですからね?」
「お、おぅ」
 わざとではないんです、と困りきったバリトンボイスが囁いてきて、それはそうだろうと頷いた。周囲の乗客たちもまた、満員なのにまだ入ろうとしてくる客に対して、他所に行けだの、足を踏むなだのと、あちらこちらで文句が飛び交う。



<中 略>



■R18部分のサンプル少し。カーセックスのシーンより抜粋。

「今度からは、どんなに忙しくてもマメに時間作って、エッチしましょうね。また満員電車に煽られたんじゃたまらない」
 熱い吐息をこぼしてから、避妊具を咥え、ピッと個装を噛み切るのがワイルドでドキドキする。時間もないし、手早くしなければならないのは分かっているが、私はふらふらとその立派な屹立に手を伸ばす。
「ちょっとだけ舐めてええ?」
「蒸れてますが、それで良ければ」
「うん」
 そっと腰を落とし、れろっと竿を舐めれば、ぴくっと太いものが跳ねる。唇を湿らせてから、ぱくりと口に含んでちゅぽちゅぽとしゃぶり、空いた右手で自分の竿を軽く擦って。
「んっんっ……んふぅ……んん……れろっ」
「やーらしい眺め。俺のをおしゃぶりしながら、おちんちんしこしこしてるアリス、かわいいよ」
 せっかくだし、とにんまりした火村が、スマホをこちらに向けた。シャッター音がしないので、動画を撮影してるらしい。この変態め。
「っぷは……そろそろ、ええ?」
「ええ。奥に寝て下さい」
 人が来ないうちに、と顎をしゃくられ、頷いた私は後部座席に仰向けに寝転んだ。少しでも火村が車内に入れるようにと背中を丸めて足を大きく広げる。
「あ、先にあなたのを付けますね」
 手早くもう一枚の避妊具を開封した火村が、私に屈み込んでするするとゴムを息子に被せていく。火村の手に触れられて、私の分身ははしたなくも期待してぴくぴくと跳ねた。
「ふふっ。かわいい。――今から、あなたの奥をがつがつ突き上げてあげますからね? たっぷり味わって下さい」
 にやりと笑って、火村が邪魔そうにネクタイの先端をワイシャツの胸ポケットに押し込んでから、掴んだジェルチューブを開け、ちゅるるっと中身を私の中に絞り出す。そのジェルの冷たさでまたぶるっと私は体を震わせた。
「っも、ええから、はよ、入れてぇっ」
 私はM字に持ち上げた足を手で支えながら、はあはあと一人で興奮して待ちわびている。出勤前にこんなこと、と思う羞恥心が余計に身体を火照らせているとか、たった数ヶ月なのに火村のせいで随分と淫乱になってしまったのではないだろうか。
「ああ、くそ。時間無いのが本当に残念」
「ひんっ!」
 もっと胸も弄りたいのに、と言いながらワイシャツの上からカリカリと爪で乳首を引っかかれて、変な声が出た。
「あなたのピンクの乳首に、俺のちんぽの先端をこすり付けて、熱いザーメンをぶっかけたかったのに」
「んあ……っ、い、いわんとって……そんなのっ」


サンプルここまで。


この先は本編にてお楽しみ下さい。
通販→
designed
▲top